第3回目の講義が開催されました:「令和4年度 市民大学講座(専門課程)」NEWS & TOPICS
2023年1月14日(土)、第3回目の講義が開催され、梶原教授による「公害を改めて考える①~イタイイタイ病」の講義が行われました。
以下、梶原教授による内容報告
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2022年度市民大学講座「日本再理解」の3回目は,「環境」の視点から,日本の公害問題を取り上げました。私の専門は河川・水問題ですが,実は日本の公害問題は水公害という側面を有しています。公害問題の原点といえる足尾銅山鉱毒事件は,渡良瀬川の流れが鉱毒を伝搬・拡散させる「負の役割」を果たしました。その点はイタイイタイ病も同様です。
イタイイタイ病ほか,四大公害病と言うと「高度経済成長の負の側面」と形容されることが多く,そのため公害病の発生時期等も高度成長期ー昭和30~40年代というイメージを持ちやすいです。しかし,イタイイタイ病は100年公害です。病気の発生時期は20世紀初頭にさかのぼり,終結も2013年であるから,その被害は1世紀にわたります。
イタイイタイ病は,カドミウムが腎臓に蓄積し,その結果カルシウムの形成が妨げられ,カルシウムの新陳代謝が阻害されることから,骨粗しょう症と同様の事態が,何倍もひどい形で生ずるという公害病です。また神岡鉱山から50km離れた婦中町(現・富山市)にイタイイタイ病患者が集中したのも,同地点で神通川の勾配が緩み,土砂などが堆積しやすい地形が影響しています。その意味で,イタイイタイ病は自然科学(医学,河川工学)で説明できそうです。
しかし,イタイイタイ病は「社会問題」です。出産経験のある中年女性に被害が集中したイタイイタイ病を,地域は”業病”としてとらえ,「嫁の来手がなくなる」という理由で長く被害を隠ぺいしました。公害訴訟に立ちあがる際には,原告らは「戸籍をかけた戦い」と位置づけ,「負けたら,家族みなで夜逃げするしかない」という追い込まれた思いで,提訴しました。
そうしてようやく勝ち取った勝訴判決(控訴審で確定)だったのですが,控訴審翌日の企業交渉で,原告らは加害企業の謝罪を拒否しました。被害者らは,患者の救済,原状回復(環境復元),再発防止措置がなされて初めて謝罪を受け入られる,と言ったのです。2013年の終結とは,環境復元などが終わり,はじめて被害者らが謝罪を受け入れた時です。ここにようやく,1世紀にわたる公害病が,「1つの結末」を迎えました。
(梶原 健嗣)