第4回目の講座が開催されました:「令和4年度 市民大学講座(専門課程)」NEWS & TOPICS
2023年1月28日(土)、第4回目の講座が開催され、梶原教授による「公害を改めて考える②~水俣病」」の講義が行われました。
以下、梶原教授による内容報告
----------
前回に引き続き,四大公害病の1つ,水俣病を取り上げました。前回のイタイイタイ病と同じく,「高度経済成長に負の側面」として,問題の時期を高度成長期(昭和40年代前後)とイメージしてしまいがちですが,水俣病ももっとタイムスパンの長い公害病です。
焦点がよくあたるのは,1956年の「公式発見」から1973年の一審判決(熊本地裁,賠償金1,600~1,800万円,確定判決)にかけての話です。しかし,水俣病には続きがあります。この第1次訴訟のあとも,国の認定を争った第2次訴訟(1973年提訴,1979年判決),国と熊本県の監督責任(規制権限不行使)を争った第3次訴訟(1980年提訴,2004年最高裁判決)がありました。その後も2005年にノーモア水俣第1次訴訟が提起(2011年和解),2013年にノーモア水俣病第2次訴訟が提起され,同訴訟(熊本,大阪,東京)は,現在進行形の裁判です。
水俣病は病理的に説明すれば,「チッソがアセトアルデヒド製造過程で触媒として利用した無機水銀が,有機水銀化して環境中に放出され,食物連鎖を経て濃縮,これを食した人間の脳内に蓄積,感覚障害・運動失調・視野狭窄・聴力障碍に代表される症状を示したこと」と説明できます。また環境基本法2条3号に示された公害の定義に従って説明すれば,「チッソの企業活動がもたらした水質汚濁・汚染によって,人の生命・健康,生活環境等を広範に損害を与えたもの」と説明できます。
ただ,それで本当に社会現象・問題としての水俣病を説明したことになるのか,です。胎児性水俣病の第一人者として,長く水俣病の患者に寄り添った原田正純氏が「被害があるから差別が起きるのではない。差別があるから,被害が起こるのだ」と言ったのは非常に重要な示唆があり,問題を社会的にとらえることが重要です。
水俣病の経緯を踏まえてみれば,「事業活動によって環境中に放出された汚染源が,地域社会・政治構造等によって拡大されることが放置されその結果,人々の健康を損なうなど
地域社会に不可逆的な悪影響を与える事象のこと」と捉えるべきなのかなと思います。
(梶原 健嗣)